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2026/08/31

「もしも」を考える力=生きる力|防災意識が育む問題解決脳

9月1日は「防災の日」。ご家庭でも非常持ち出し袋を見直したり、避難場所を確認したりする機会があるのではないでしょうか。 実はこの「もしも地震が来たら」「もしも電気が止まったら」と考える過程そのものが、子どもの脳を育てる絶好の訓練の機会になっていることをご存じでしょうか。 今回は、防災意識と子どもの「生きる力」の関係について、脳の発達という視点からお伝えします。

「もしも」を考える力の正体とは

「もしも地震が来たらどうする?」という問いに向き合うとき、子どもの頭の中では様々な作業が同時に行われています。 今の状況を把握し、これから起こりうることを予測し、複数の選択肢を比べ、その中から行動を選ぶ。この一連のプロセスは、心理学や脳科学の分野で「実行機能」と呼ばれる力の中核部分にあたります。

実行機能とは、目の前の情報に振り回されず、目的に向かって考えや行動を調整していく力のことです。計画を立てる、我慢する、切り替える、といった働きが含まれ、将来の学習や社会生活の土台になるとされています。 「もしも」を考えることは、まさにこの力を働かせる機会そのものなのです。

文部科学省が示す学校防災の考え方でも、防災教育を通じて育てたい力として、言語能力や情報活用能力、問題発見・解決能力といった「生きる力」をはぐくむことが掲げられています。防災は単なる知識の習得ではなく、考える力そのものを育てる教育として位置づけられているのです。

防災教育が子どもの問題解決能力を育てた実例

「もしもを考える力」が実際の命を守る行動に繋がった、象徴的な出来事があります。東日本大震災における、岩手県釜石市の子どもたちの避難行動です。

当時、鵜住居小学校と釜石東中学校の児童・生徒たちは、大津波の中、教師の指示を待たず、自らの判断で校庭に駆け出し、高台へと避難しました。 避難後も状況は予断を許しませんでした。第一避難所に到着した後、崖が崩れる様子と迫る津波を見た子どもたちは「ここでは危ない」と自ら判断し、さらに高い場所へと移動を続けたのです。結果として、学校管理下にいた児童・生徒約570人全員が無事に避難することができました。この出来事は「釜石の奇跡」として広く知られています。

この背景には、2005年から地域で積み重ねられてきた防災教育がありました。指導にあたった片田敏孝教授(群馬大学大学院、当時)が子どもたちに伝えていたのは、「想定にとらわれるな」「最善を尽くせ」「率先避難者たれ」という3つの原則です。 これは「正解を覚える」教育ではなく、「そのつど自分で考えて判断する」ことを重視した教育でした。ハザードマップという一つの想定に頼りきらず、状況を見て自分の頭で最善を考え続けたからこそ、子どもたちは変化する状況に対応できたのです。

この事例は、防災教育が「怖い出来事に備える知識」であると同時に、「予測し、判断し、行動を選ぶ」という問題解決の過程を育てる教育でもあることを、私たちに教えてくれます。

家庭でできる「もしも」の練習

難しく考える必要はありません。日常の会話の中に「もしも」を取り入れるだけで、子どもの思考力を育てる機会になります。年齢に応じた問い掛けの例をご紹介します。

未就学児には 「地震がきたら、どこに隠れる?」という平易な問いから始めてみましょう。正解を教え込むのではなく、子ども自身に考えさせ、「テーブルの下かな」「頭を守るのかな」といった発言をまずは受け止めてあげることが大切です。

小学校低学年には 「もし電気が止まったら、何に困るかな?」「懐中電灯はどこにあるか知ってる?」など、生活の具体的な場面に結びつけた問い掛けが効果的です。困りごとを想像し、対策を考えるという一連の流れを、親子の対話の中で体験できます。

小学校高学年には 「避難所で足りないものは何だと思う?」「その中で、どうすれば快適に過ごせるかな?」といった、より複雑な問いに挑戦してみましょう。限られた資源の中で工夫する経験は、優先順位づけや創造的な問題解決の練習になります。

対話をするときの要点は、子どもの答えを否定せず、まず受け止めることです。防災に「唯一の正解」はなく、状況によって最善の行動は変わります。大切なのは正しい答えを覚えることではなく、「自分で考える」という過程そのものです。

まとめ:特別な日から、日常の「もしも」へ

防災の日を切っ掛けに始めた「もしも」の対話は、災害時だけのものではありません。「もしも大雨が降ったら」「もしも道に迷ったら」など、日常の細(ささ)やかな場面にも応用できます。

子どもが自分の頭で状況を捉え、選択肢を考え、行動を選ぶ経験を重ねることは、防災の枠を超えて、生涯にわたる「生きる力」の土台になります。 この防災の日を、備蓄の確認だけでなく、親子で「もしも」を考える時間として過ごしてみてはいかがでしょうか。

出典・参考資料

内閣官房「学校における防災教育の取組と課題」(防災推進会議資料) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/resilience/dai57/siryou3.pdf
消防庁 防災危機管理eカレッジ「3. 釜石の奇跡」 https://www.fdma.go.jp/relocation/e-college/cat63/cat39/cat22/3.html
ふくしまの防災 HIH「釜石の奇跡とは何か|570名を救った防災教育と津波てんでんこの教訓」 https://bosai-hih.jp/kamaisi-b/